もし大切なものをなくしたら。
あんただったらどうする。
きっと必死で探すだろうね…
でもね…どんなに探しても願っても
やっぱり失ったものは帰ってこないよ。
---『月影』---
窓の外はきれいな月が空に浮かんでいる。
何もかもが吸い込まれそうに輝いていた。
この窓からはそんな月が凄くきれいに見える。
もしあいつが生きていたならこの月を見ていただろう。
そんなことを思っているのだろうか。
「いつまで起きているんだ?」
「子ども扱いすんな!」
エドは自分を子ども扱いされるのがキライだった。
はなにもできなかった自分を思い出すからだ。
「別に子ども扱いしたわけではないがね。」
ロイは椅子をベットに引き寄せ手に持っていたお皿と水の入ったコップを棚の上におき自分は椅子に座った。
「もう大丈夫だって、少し疲れただけだから。」
「そういってまた熱が上がってしまったではないか。」
そういってロイはエドにコップを渡した。
エドは体を起こしコップを受け取った。
二人が食事を終え軽く暖炉のある部屋で会話をしていた。
始めのうちは、たわいもない会話に話がはずんでいた。
けど、時間がたつにつれてだんだんとエドの体調が悪くなってきたのだった。
エドは気づかれないよう元気なふりをしていたが、そんなふりでロイを欺けなかった。
結局エドは強制連衡の身となった。
それで今にあたる。
「だから、もう大丈夫だって熱もそんなにないし。」
エドは大丈夫だって笑って見せた。
本当はつらいだが心配を掛けまいと精一杯笑って見せた。
エドのそんな姿を見るだけで心が心が痛む。
そのことにロイも共感していたらしく、今まで気づかないふりをしてきた。
だからエドの前では笑顔を絶やさなかった。
せめてもの救いになればいいと思っていた。
「がんばるのはいいがそろそろ寝たまえ、少しで早く直すために。」
「はいはい分かりました、そんじゃおやすみ…」
エドは毛布に包まってとこについた。
ロイはエドが寝たことを確認すると静かに部屋を出て行った。
「何事もなければ良いのだがな…」
ロイは一枚の診断書をポケットから出した。
それを見るなりロイは顔をしかめた。
毎回ロイはそれを見るなり痛々しい思いをしていた。
その紙には…エドの治療結果が書かれていた。
エドの体調不全は風邪のせいと思われていたが、本当はもっと最悪な病気だったことを
エドはまだ知らされていなかった。
だからロイは今の間でもエドの前では絶対暗い顔をしてこなかった。
自分が弱気では、相手を不安にさせてしまうっといつも笑っていたのだ。
それがせめてものの救いになればいいと……
「それでは私は私は行くが、君は今日はちゃんと寝ていなさい。」
「だからもう大丈夫って行ってんだろ。」
「昨日もそれで熱を上げたのは誰だ。」
ロイはそう言いながらエドのほっぺたを引っ張った。
「いひゃい…わかりまひた。」
「よろしい、それでは行ってくる。」
ロイは右手をかざした。
「中尉たちに迷惑掛けんなよ。」
そういってエドはニカット笑った。
ロイは目の前の書類に絶句した。
「中尉…これはいったい…。」
「今まで大佐がサボっていた仕事をまとめてやってもらいます。」
「それなら昨日終わったではないか。」
確かにロイは昨日山ほどの書類の山を片付けた。
「それは昨日提出の書類です。今日提出の書類はまだ終わっておりません。」
ロイは口をあけたままなにもいえなかった。
さらに中尉はロイに追い討ちを掛けた。
「もしお逃げになられたら、二度と家には帰れませんので。」
とっても強烈な追い討ちだ。
この当方司令部では誰一人をして中尉に逆らえる人はいない。
もし逆らったとしたら、生きて帰れるか分からないからだ。
【…なにやらさっきから視線が痛い…】
【中尉のことはこの辺にしよう…】
仕方なくロイは仕事を始めることにした。
そん頃エドはこれから起こる悲劇などなにも知らずに、平然のごとくベットの中で眠っていた。
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